INAKA談話ブログ

時間があるときに趣味や自作小説や雑談など書きます

【自作小説】「私の影」第二話 持久走

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 影はいつも後ろをついてくる。影は何も話さないし触れることもできない。しかし、そんな影に助けられた頃があった・・・・

「集合!!」先生の言葉で僕も含めてみんなが整列した。今日の体育の授業は1500mの持久走。僕は昔っから走るのは苦手だった。

小学校の頃、僕はマラソン大会でいつも後ろ数えて2番3番目の順位。しかも6年生最後のマラソン大会はベリだった。ベリで走る僕に観客は応援してくれたが、僕は恥ずかしさの余りその応援が嫌味に聞こえた。「こんなことになるなら、仮病使えばよかった」と心のなかで思った。

そして現在、各々走る準備が終わりスタート地点に立つ。僕は「あぁまた僕はベリなんだな」と始める前からベリが確定だと諦めていた。

先生がスタートの合図を出した。「位置について、ヨーイ。」みんなは走る構えをした。「ドン!!」といった直後一斉にみんなが全力で走り出した。僕もみんなの流れに沿って走った。50メートル先まではみんなは全力で走っていたが、その後スピードを緩める人、全力で走る人と別れ距離が開いた。僕は当然緩める方で、後ろから3から4番目で走っていた。

「いつもそうだ、なんで走らなきゃいけないんだ。どうして全力で走る人はいつも全力なんだ」と僕は心の中で繰り返し繰り返し訴えていた。

やっと3周目に入った。僕の順位はいつの間にかベリになっていた。もう走る気力がない僕は下を向いて走っていた。「早く終わって早く終わって」と小声で何度も言った。下を向くと自分の影が見える。当たり前だけど走る自分に影はついてくる。僕は「自分は弱音を吐くばかりなのに自分の影は弱音を吐かない。あたり前のことなのに影が偉く見える」と自分の影を人のように見ていた。その自分の影を僕は「一緒に走ってくれてありがとう、勇気出た」と言った。

最後の一周に入り、トラック外には先にゴールした上位者が休憩していた。走る自分の前には30mくらい先に一人いた。前を向くと一人で走っている気分だったが下を向くとひとりじゃないような気分に思えた。僕は下を向いたまま走った。知らず知らずのうちに体が前に進むようになり、先にいた一人に近づいた。ゴールは残り直線だけ。僕は下を向き、残りの直線を全力で走った。

そして、ゴール。僕はいつの間にか一人を抜いていた。体力を使い切った僕は、下を向いた。影は太陽が雲に隠れていたせいで見えなかったが僕は「ありがとう」といった。